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京都地方裁判所 昭和41年(ワ)1144号 判決

原告

西岡真三

代理人

能勢克男

平田武義

被告

中村俊男

代理人

山本諫

被代理人

松枝述良

主文

被告は、原告に対し、金六二〇万円およびこれに対する昭和三九年九月六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。訴訟費用はこれを二分し、その一を被告、その余を原告の負担とする。

本判決第一項は、原告が金二〇〇万円の担保を供するとき、仮に執行しうる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

(原告)

一、被告は、原告に対し、金一、二二〇万円およびこれに対する昭和三九年九月六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、仮執行宣言

(被告)

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

(請求原因)

一、原告は、昭和三八年一二月二一日、被告の代理人結城小七郎との間で、被告所有名義の別紙目録記載の土地建物(本件不動産)について、(1)代金は金一、三八三万七、五〇〇円とし、手附金五〇〇万円は即時支払い、残代金は昭和三九年七月一〇日までに本件不動産の明渡移転登記必要書類交付と引換えに支払う、(2)、買主が債務不履行の場合は手附金を没収され、売主が債務不履行の場合は手附金の倍額を買主に支払う(手附倍戻しの特約)旨の売買契約を締結し、同日、手附金五〇〇万円、昭和三九年三月一二日、代金内金五〇万円、同月二八日、同金五〇万円、同年五月一八日、同金一二〇万円(以上合計七二〇万円)を結城小七郎に支払つた。

二、原告は、被告に対し、昭和三九年八月二三日到達の書面をもつて、同月三〇日までに本件売買契約義務を履行することを催告したが、被告が履行しなかつたので、原告は、被告に対し、昭和三九年九月五日到達の書面をもつて、本件売買契約解除の意思表示をした。

三、仮に結城小七郎に本件売買契約締結の代理権がなかつたとしても、被告は、原告代理人三条場英夫に対し、本件不動産売買に関する一切の代理権を結城小七郎に授与した旨表示したから、被告は、結城小七郎の前記行為について責任がある。

四、よつて、原告は、被告に対し、右支払済代金七二〇万円と手附と同額の損害金五〇〇万円との合計金一、二二〇万円およびこれに対する昭和三九年九月六日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求原因に対する認否)

請求原因事実は争う。

(仮定抗弁)

原告は、昭和三九年七月初旬、結城小七郎との間で本件売買契約を合意解約し、同年七月中に、結城小七郎から金一五〇万円の返還を受けた。

(抗弁に対する認否)

抗弁事実は争う。

第三、証拠〈省略〉

理由

〈証拠〉によると、原告は、昭和三八年一二月二一日、被告の代理人と称する結城小七郎との間で、被告所有名義の本件不動産について、代金は金一、三八三万七、五〇〇円とし、手附金五〇〇万円は、即時支払い、残代金は昭和三九年七月一〇日までに本件不動産の明渡および所有権移転登記必要書類交付と引換えに支払う旨の売買契約を締結し、同日、手附金五〇〇万円、昭和三九年三月一二日、代金内金五〇万円、同月二八日、同金五〇万円、同年五月一八日、同金一二〇万円(以上合計金七二〇万円)を結城小七郎に支払つた事実を認めうる。手附倍戻しの特約成立の点に関する〈証拠〉は、証人酒井信雄の証言に照し、採用し難く、他に右事実を認めうる証拠はない。

〈証拠〉によれば、被告は、昭和三八年六月一一日、結城小七郎に対し、所有移転登記は中間省略により転買人に直接する旨の約定の下に、本件不動産を売渡したのであり、結城小七郎に対し、本件不動産売買契約締結の代理権を授与したことはないのであるが、被告は、同年一二月初頃、結城小七郎の依頼に基き、原告代理人三条場英夫に対し、「被告は、結城小七郎に対し、被告所有の本件不動産売買に関する一切の代理権を授与してある。」旨言明するとともに、被告の名刺裏面に「小生の所有物件でありますが取引きその他一切は結城小七郎氏にまかせてあります」と記載して(結城小七郎代筆)署名捺印したうえ、これを三条場英夫に交付した事実を認めうる。被告本人の供述のうち右認定に反する部分は採用し難い。

したがつて、被告は結城小七郎の本件売買契約締結と代金受領の行為の効果が自己に及ぶことを拒絶しえない(民法第一〇九条)

〈証拠〉によれば原告は、昭和三九年七月初旬、被告の代理人と称する結城小七郎との間に本件不動産売買契約を合意解除し、支払済の代金七二〇万円の一部金一〇〇万円の返還を結城小七郎から受けた事実を認めうる。原告本人の供述(第二回)のうち右認定に反する部分は採用し難い。右返還金額は金一五〇万円である旨の被告主張事実に符合する乙第四号証の記載部分は、〈証拠〉に照し採用し難く、他に右事実を認めうる証拠はない。

甲の表見代理人乙が、甲の代理人として、丙との間に売買契約を締結し、丙から代金を受領した後、右売買契約を丙と合意解除し、受領した代金の一部を丙に返還した場合、丙が、甲に対し、乙の右売買契約締結と代金受領の行為の効果が甲に及ぶことを主張するとき、甲は、丙に対し、右売買契約合意解除と代金一部返還の行為の効果が丙に及ぶことを当然に主張しうると解するのが相当である。

よつて、原告の本訴請求は、結城小七郎に支払済の本件売買代金七二〇万円より同人から返還済の金一〇〇万円を差引いた残金六二〇万円およびこれに対する昭和三九年九月六日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において、正当としてこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、民事訴訟法第九二条第一九六条を適用し主文のとおり判決する。(小西勝)

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